渓嵐国泰山海紘宮

Recent Trackbacks

« October 2013 | Main | April 2014 »

December 2013

December 08, 2013

かぐや姫の物語

今は昔竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて、竹をとりつつ、よろづのことに使ひけり。

岩絵具で描かれたような淡い色彩の中に『竹取物語』の冒頭文がそのまま流れ込み、空間ごと平安初期へと溶け入る。
そこは、自然と共鳴して生きる狩猟や農耕で成り立つ社会に住む人と、その他人の営みに依存しながら違う価値観の中で都で暮らす人々が分岐し始めた、いわば資本主義社会の萌芽のような世界である。

『竹取物語』では、姫は翁に見出された「三寸ばかりなる」「いとうつくし」い様子のまま、「妻の嫗にあづけ」られ、「いと幼ければ籠に入れて養」われる。
しかし、この映画では、普通の赤ん坊に姿を変え、桃を食べて若返った桃太郎のおばあさんよろしく、媼の乳によって育てられる。
育児の過程も原作では、「三月ばかりになる程に、よきほどなる人になり」「髪上などさだして、髪上せさせ裳着す」ることになるし、「帳の内よりも出さず、いつきかしづき養ふ」という箱入り娘ぶりだが、映画では、おしりも丸出しのまま近所のこどもと野原を駆け回りながらのびのびと育つ。「たけのこ」と呼ばれるほど周りの子どもとは成長の早さが違うが、髪上げをするまでには原作の約三倍の時間がかかっている。

約19000字の『竹取物語』の中で、髪上げの儀式までの描写は約560字。約2%に過ぎない。しかし、映画では、ここまでに約半分の時間を割く。この「育ち」の描写が、テーマと深く関わってくるからである。

映画の中のかぐや姫は、髪上げの儀式に際し、眉を抜きお歯黒をすることに対して「汗が目に入ってしまうし、口を開けて笑ったら変だ」と抵抗を示す。もちろん原作にはないエピソードだ。かぐや姫が拒絶を示すその理由はただひとつ「人として生きていくのに不自然なことを強要されるのは嫌だ」からである。しかし、教育係の相模は「高貴な姫君は汗などかかないし、大きな口を開けて笑わないものです」とその「不自然さ」こそが価値であると主張する。前半、何度も繰り返される「高貴な姫君」というワードは、姫を自然から切り離していく都の生活の象徴である。

育ての親である翁は「高貴な姫君となり、しかるべき公達に娶られること」こそが姫の幸せだと信じて疑わず、それを推し進めようとする。それは私が出会う「いい大学に入り、いい就職をすること」こそが子どもの幸せだと主張する親たち(そしてそれをひときわ強く主張するのはやはり父親が多い)となんら変わりはない。隣にいる子がどんなに悲しそうな顔をしているかに関心がないように見えても、彼らは子どもをちゃんと愛している。だからこそ、子どもにとってはたちが悪い。愛してくれる親のために、なんとか期待に答えねばと思う。自分は「子ども」なのだから、親の言う「価値」が理解できないだけなのだ、今はおとなしく言うことを聞いたほうがきっといいのだ、と思おうとする。髪上げをするかぐや姫は、普通の年齢で言えば13歳前後。価値観の違う聞く耳を持たない親に、自らの主張をぶつけるのは、難しい年齢である。原作でも五人の貴公子と「逢う」(は古語では「結婚する」の意を持つ)よう姫に「我子の佛變化の人と申しながら、こゝら大さまで養ひ奉る志疎おろかならず。翁の申さんこと聞き給ひてんや。」と頼む翁に、姫が「何事をか宣はん事を承らざらん。變化の者にて侍りけん身とも知らず、親とこそ思ひ奉れ。」と答えて、条件を言い出すことになっている。

 父子の価値観のすれ違いは、母によって取り持たれる。翁の妻媼は、夫の思いを汲み都に移り住みながらも、家の裏に「山の暮らし」を疑似体験できる小さな庭を作ることで、姫の心の拠り所とさせる。姫は自分のことを思って父が強いる「不自然」生活で生じるストレスを、母の守る「自然」で癒やすのである。そしてこれもまた、私が出会う親子によくある関係性である。(もっとも、父と母が逆の場合もあれば、両親共にストレス要因になってしまって逃げ場のない子もたくさんいるのだが。)しかし、かぐや姫は気づいてしまう。否、気付かされてしまう。翁のためと言い訳し、自分の思いをきちんと正攻法で遂げようとしなかった自分の罪に。媼の側でミニチュアの山を愛でては、ほんのひと時ストレスから解放されたことで「この生活」に満足していると自分をごまかしてきた罪に。帝に抱きすくめられ、決定的な嫌悪感を抱いてしまった瞬間、自らの手でそれを解決することなく無意識ながら「月」に助けを求めてしまったことで、それが自分がこの地に使わされる原因である「罪」であったと気付かされてしまうのだ。

 原作では姫を迎えに来た天人が「かぐや姫は、罪をつくり給へりければ、かく賤しきおのれが許にしばしおはしつるなり。」と言う。しかし、その罪の具体的な内容に関する記述はない。授業で取り上げるときにも、生徒がとても関心を持つ部分であるが、何の根拠もないので今まで触れたことはなかった。しかし、この罪を映画にそって考えるとするならば、物語は一気に現代性を帯び、我々の胸に迫る。311で、私たちは自らの限られた生を思い知らされた。当たり前に続くものと思っていた日常が突然断ち切られるどうしようもない傷みと悲しみを、あの地震と津波をリアルタイムで目撃した私たちは、誰もが自分のことのように感じたはずだ。そして、今のこの時をどれほど大切にしなければならないかに思い至ったはずだ。しかし、二年半を経た今、自分の中でどれだけ意識的にあの思いと向きあっているだろうか。日々の生活の中で、結局取り紛らわせてしまっているのではないだろうか。仕事が忙しい、大事なのはわかるけど、なかなか思うようにはできるものではない。いつも自分自身に言い訳ばかりして、ごまかしてしまっているのではないだろうか。

 月の世界は何の苦しみも、何の悲しみもない「清ら」な世界である。それは、月からの迎えの奏でる一点の曇もない底抜けに明るい音楽に象徴されている。その苦しみや悲しみのない世界を「退屈」に思ってしまい、混沌とした地上に憧れてしまったのがかぐや姫の罪だと高畑監督はパンフレットに書いておられたが、それを読み、私の感じたものが間違いではなかったと確信できた。人の世には「苦しみ」があり「悲しみ」があり、いわゆる仏教の「愛別離苦」が存在するからこそ「生」への愛おしみが生まれる。「苦しみ」や「悲しみ」がなければ「愛」もまた生まれない。月の世界はその全てがない清浄な世界であるが、言い換えれば清らかすぎて面白みもない世界なのである。だからこそ、かぐや姫は地上に憧れもしたし、地上を愛おしくも思った。しかし、そこで起こる「苦しみ」や「悲しみ」を自ら乗り越えることを放棄してしまった時に、「苦しみ」や「悲しみ」がない方がいい、月の世界の方がいいと思ってしまったとされてしまったのである。蛇足だが、原作には無論、帝との一件が帰される理由であるというような因果関係は書かれていない。高畑監督ならではの見事な読み解きだと感服しきりである。

 そうなると、限られた時間の中で姫が求めるものは、月の世界には存在しない「愛」だ。姫にとって何にも代え難い愛しき日々である幼いころを共に過ごした捨丸兄ちゃんと、抱き合って空を駆けるシーンは、とても清々しい、それでいて艶かしいラブシーンだ。たった一度だけの、しかし、生涯消えない、記憶を消されても体に刻みつけられたよろこびを抱いて、姫は月へと昇るのである。ここに来て、主題歌の『いのちの記憶』の歌詞がじんと胸に染みこむ。「いまのすべて」は「過去のすべて」であり、「未来の希望」でもある。そんな「いま」を生きなければ、「過去」も「未来」もないのだ。その重みが、美しい映像とともに体に流れ込む。今一度、立ち止まって、いまをみつめよう。そう思わせてくれる素敵な映画だった。


« October 2013 | Main | April 2014 »

July 2015
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

雅俗共賞〜最近観た映画〜

  • 真珠の耳飾りの少女
    :
    光の変化を感じ取るものと、そうでないもの。それを人々は「芸術を解するか否か」と表現するのだけど要は感性の問題。美とか快とかいうものの一致こそが人を理解する根本を成すのだと思った。映像がもの凄くきれい。 (★★★)

音吐朗朗〜最近聴く音楽〜

  • 雪月花
    YUMING: WINGS OF WINTER,SHADES OF SUMMER 
     時に、出会いは偶然。4年も前に発売されたこのアルバムを、今日、このタイミングで初めて聴いたのも、偶然。十代の頃から、ユーミンの曲の「やさしさに包まれ」て、歌詞の鋭さに突かれて、何度も窮地を切り抜けてきた。今回も、きっと背中を押してくれるね。どんな状態になっても、私らしく、凛といること。そうきっと「悲しみにも時は流れ 海へと注いでいく」のだから。 (★★★★★)
  • 『愛と欲望の日々』&『Lonely Woman』
    サザンオールスターズ:
    『大奥』のようなドラマを軽やかにするのはサザンしかいないのかも。女の情念なんてハレルヤ!ってなもんかな。きらびやかなジャパネスク調のサザン(世は万葉あたりね)、実はかなり好き(^-^)『Lonely Woman』は秋冬のサザン。実はサザンは全天候型なのよ(笑)(桑田さんは雨男だけど) (★★★★)
  • 乙女ノックアウトナイト
    比屋定 篤子: ひやじょう
    久々発売の4thアルバムのお気に入りの曲。もう大分前からライヴでは歌われていたけど、毎回このテンポにくらくらでした(^-^)レコード会社の人からこの題名は・・・と言われたらしいけど、この題名あってこそ、だと思う。オザケンの『東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディーブロー』を思わせますです。 (★★★★)
  • ミモザ
    ゴスペラーズ:
    最近、どれを聴いても同じに聴こえる(爆)新しい刺激が欲しいよぉ。でも、サビの黒ポンの声は良いね。あとCMの唐沢くんもね。 (★★)

錦心繍口〜最近読んだ本〜

  • J・K・ローリング: ハリーポッターと秘密の部屋
    ハリーポッターシリーズは、話題になってすぐに1作目を読んだのだけど、正直、あまり興味が持てず、そのままにしておいた。が、最近、生徒と面接の練習をしている時に「教育学部に行きたいと思ったのは、ハリーポッターシリーズのダンブルドア校長先生の影響があります」というのを聞いて、改めて読んでみようと思った。この巻でも、自分がスリザリンと関係深いのではないかと悩むハリーに、「大切なのは、どう生まれたではなく、何を選ぶかだ」と助言するところがいちばん心に染みた。なるほど、教育指南書として読むハリーポッターもありだな、とシリーズ読破を試みている。それにしてもロックハートは、ひどすぎる教師だ(笑)
  • 竹田 青嗣: 「自分」を生きるための思想入門
    思想とは、社会的には人間に「正しいこと」を教えるものではなく、社会の中で絶えず「より合理的な関係」を作り出していくための“技術”であり、実存的には、個々の人間が、自分の生全体から「より大きいエロス(生きる喜び)」を引き出すための有効な“技術”であるという主張には、目から鱗が落ちた。自分が目指す生き方のために、様々な思想家の思想をどう理解し、どう選び取るか。哲学とはかくも実用的なのかと感動した。さて、私は、何をえらべばいいのか。それこそ、自分でしか決められない実存的問題なのである。 (★★★★)
  • 鈴木 真砂女 ・黛 まどか : 恋がすべて
    新旧女流俳人対談集。鈴木 真砂女という名前は知っていたが、こんなにも壮絶な恋をした人だったとは・・・その激しさと、強さと、美しさに号泣。魂が惹かれあうというのは、きっとこういうことを言うのだろうな。そんな巡り会いがひとつあれば、人はしあわせなのだと思う。黛さんも、そういう恋が出来るといいですね(笑) (★★★★)
  • 小谷野 敦: モテない男
    ものすごく面白くて、旅行中に二日で読み終えて、友人に押し付けてきた(笑)「恨み言」的な体裁を取りながら、しっかり分析されているところが流石。「恋愛はしなくても生きていける」と提唱したいけど出来ないジレンマが面白かった。(なんて言ったら怒られるかも)私はやっぱり本居宣長派の恋愛至上主義です(^^; (★★★★)
  • 養老 孟司: バカの壁
    今更ですが(笑)これって、ベストセラーなんだよね?一昨年、日本でいちばん読まれた作品なんだよね?こういう「もっともなこと」の溢れた本がそんなに売れてるのに、こんなにどうしようもない社会なのは何故なんだろう?(^^;「個性」についての考え方など、とてもわかりやすくて的確だと思いました。 (★★★★)
  • 瀬尾 まいこ: 図書館の神様
    文学音痴のでもしか国語教師が主人公。結構いるんだよね、実は(爆)私、もの凄く苦手なんだけど(爆)でも、まぁ、現代的には響きやすい話なのかもしれない。これをきっかけに漱石や周五郎を読む人が出れば、それはそれで良いのでしょう(^^; (★★★)
  • 小谷野 敦: 性と愛の日本語講座
    近現代文学における性愛に関係する言葉を、まじめに調べた一冊。下世話に思える言葉であろうと、いくつもの出典に当たって読み解いて行く作業はまさに国文学。大学でやってたことを思い出して楽しかった(^-^) (★★★★)

気韻生動〜最近観た舞台〜

  • Dr.TV
    福澤一座:
    福澤一座の第二回公演。言葉とテレビにこだわったこの作品群は、これからも小さなエピソードを繋いでいく形なのかな?正直言って、去年の方が面白かったなぁ(^-^;)しかし、森圭介アナはやっぱり好み(^^;一瞬「畑中くん?」と思う部分があって、やっぱり好きなタイプが似ていることが判明。結局ショタコンか(爆) (★★★)
  • SHIROH
    劇団☆新感線:
    歌うような台詞、とよく言うが、歌がきちんと台詞になっていることに感動。上川さんはとても歌が上手いと言う訳ではないのだが、すごくまっすぐに体に染みてくるのだ。『マイ・フェア・レディ』の レックス・ハリスンみたい。もう一人のシロウ、中川くんはもの凄く歌がうまかった。そして、ロック。それから迫力の群舞。すごい。少しは見習え<『クラ○ディア』(爆) (★★★★)
  • 『スキップ』
    演劇集団キャラメルボックス: タイムトラベルシアターVol.1
    都合三回鑑賞。一度目は現在の自分に重ね合わせて観てしまって号泣。二度目は少し冷静になり、自分が頭の中でだいぶ補って見ていること気付く。それでも、告白されると泣いてしまう(;_;)3度目の千秋楽は、坂口さんの熱演にまた引き込まれ、クライマックスでやっぱり涙を禁じ得ない。とにかくさわやかに泣けた。演劇としての構成の問題などはあるのだろうけど、小説も含めて十二分に『スキップ』の世界を堪能できたことに感謝。 (★★★★)
  • 沖縄ラーメンズライヴ
    ラーメンズ:
    『沖縄ラーメンズライヴ  サーターアンダギーは見かけのシンプルさの割に名前が長過ぎ  A&Wは貴方と私の略。  ラーメンズにとって沖縄が楽園になるかどうかは客次第』 やっぱり頭の良い人の考えることは面白い。 (★★★★)
無料ブログはココログ