渓嵐国泰山海紘宮

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October 17, 2013

飛龍伝21 ~殺戮の秋〈いつの日か、白き翼に乗りて〉

 「つかこうへい」をもちろん知らないわけがない。
 『蒲田行進曲』や『幕末純情伝』は映画でなら見たし、
 その独自の演出法に心頭し、
 門下に入る役者が多くいたことも知っている。
 昭和の演劇史を積み上げた御大、
 であるがゆえに敷居が高いというのが実際のところで、
 結局ご存命中に劇場に足を運ぶことはできなかった。
 (蜷川さんも似たような理由で見ていなかったのだが
  去年『ボクの四谷怪談』で度肝を抜かれた。
  やはり、いいと呼ばれるものには理由がある。
  食わず嫌いは良くない。)
 つか演劇を生で体験している私の観劇の師匠(笑)が
 「つかさん、生きてる」などとのたまうもので、
 今回の『飛龍伝』に、当日券で急遽参戦。
 (これはまさしく参戦でしょ。)

 つか芝居に関しては、そういうわけで、私が語る資格など
 毛頭ないのだけれど、やはり最初に、
 台詞の聞き取れなさに面食らう。
 何故にこんなに叫んでいるんだ・・・
 割れ割れで聞き取れない・・・
 と、前途多難に感じたのも束の間(は、言い過ぎだが、まぁ、洒落として)
 だんだん聴けるようになる。
 あるいは、聴けないまでも、なんだかわかるようになる。
 台詞は言葉のみにあらず、だ。
 ほとんど無いに等しい舞台装置も衣装も、「そういう世界」に感じられる。
 不思議な感覚だ。
 
 物語は1970年秋。
 70年安保をめぐる全共闘と国家権力(の末端である機動隊)の
 闘争の中での愛憎劇。
 何しろ副題が「殺戮の秋」というからに、芝居全体が
 暴力と死と不条理で溢れている。
 ・・・と書いてしまうと、いかにも陰惨なものに感じられるかも知れない。
 しかしながら実際は、カラッと、スパっと、スッキリ、といった趣さえある。
 ストーリー自体には救いようもない悲しみや切なさや悲惨さに溢れているのに、
 それをそれだけに見せない仕掛けがそこにはあった。

 例えば、殴る時のSE。
 大げさな漫画の効果音の如き音が入ることで、
 それは記号化し、実際の「傷み」から距離を置くことが出来る。
 逆に言えば、その仕掛けがなければ、とても直視できないほどの暴力が
 舞台上では繰り広げられる。

 私は思想的には「安保反対」側で、
 沖縄の県民集会にも参加するタイプの人間だが、
 全共闘の闘争スタイルにはやはり賛同できない。
 ・・・と書いてしまえるのは、もちろん、この平成も四半世紀を過ぎた
 今だからであって、たぶん、あの時代に大学生であったなら
 過激に声をあらげ、ことによると、実際の闘争現場に身を投じていたであろう。
 今、「暴力に訴えるはよくない」などと言えるのは、
 歴史の中で暴力の「非力さ」と暴力で何かを得る時の代償の大きさを
 思い知ったからであって、暴力しか「言語」のなかったあの時代の
 彼らの生き方を批判することは決してできないことだ。

 主人公、神林美智子は、ノンポリの優秀な女子大生に過ぎなかったのに、
 東京に出て、全共闘作戦参謀部長桂木の「女」になったため、
 作戦の一環として、全共闘40万人を束ねる委員長にまつりあげられてしまう。
 「高尚」に思える「思想」を共有する理想的な「男」のために、
 身も心も捧げる美智子は、
 全共闘の思想を体現したかったわけでは全くなく、
 単に好きな男を支える存在としての自分の価値を認められたい一心に見えた。
 最初に全共闘に勧誘をしてきた男のことを、
 関係を持った途端好きになってしまうという描写は、
 そういう美智子の「ピュアな乙女心」の象徴であろうし、
 「東京に出てこなければよかった」という独白も同じ心情からのものであろう。
 「うら若き乙女」が、特に美智子のように
 親からの愛情を十分に感じられていない女子が
 恋愛に求めるのは、相手からの普遍の肯定だ。
 お前が大切だ、お前がいないと困ると言ってくれる存在が
 いちばん大切なものであり、それを失わないためには
 まさに「心身込めて尽くす」のである。
 しかもそれが「高尚」な「思想」を介するものであるならば、
 個人的な満足を超えて、社会的にも認知されている安心感が得られる。
 しかし、バレリーナの爪先立ちの如く、無理して高みを望むような姿勢は
 いつまでも続けられるものではない。
 そんな時に寄りかかってしまいたくなるのが
 山崎一平のような、「思想」などと無関係な、
 全く理屈抜きで本能だけで自分を愛し、守ってくれる
 「中学出の機動隊員」なのである。
 桂木も山崎も、どちらも好きだと思えてしまう美智子の気持ちには
 何の矛盾もない。
 彼女の心情は、かつて「うら若き乙女」だった私には、まるごと理解できる。
 そして、彼女の二倍生きてきた今、それはどちらも
 人生を賭すことのできる「愛」ではないと言うことが出来る。

 暴力にしか訴えられない全共闘の闘争スタイルも
 全体主義を批判しながら似たような組織を作ってしまうことも、
 根本は同じなのだ。
 人生は0か100かではなく、何百、何千もの層のある奥深いものだ。
 思想も愛情も憎しみさえも、極端には語れない。
 グラデーションを、しかも何色ものそれを、幾通りも生み出すことこそが
 人生の深みであり、喜びであると、
 混じりけのない原色だけで描かれた『飛龍伝』を見るとしみじみ感じられる。
 その目が痛くなるほどの原色は、見ているこちらが自ら調合しなければ、
 言語にはならない。
 それを伝えているのが、なんの誂もない演劇スタイルなのだろう。
 この題材で、このスタイルで、この台詞でなければ、絶対に成立しない
 曲解されてしまう芝居。
 これこそが真の個性であり、つかこうへいにしか作れない世界なのだ。

 タキシードの男優陣に
 白いドレスも鮮やかな桐谷美玲嬢の秀麗さ、
 舞い飛ぶ金銀のテープといった
 先ほどまで繰り広げられていた舞台とは対照的な
 なんとも派手なエンディング。
 40年たっても全く解決されていないこの国の問題の根深さを
 見せつけられて、混沌とした脳裏に
 昭和の時代の華やかさとやるせなさを響かせるフィナーレ。
 かくして、カオスのまま青山劇場を離れた。
 
 
 
 
 

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雅俗共賞〜最近観た映画〜

  • 真珠の耳飾りの少女
    :
    光の変化を感じ取るものと、そうでないもの。それを人々は「芸術を解するか否か」と表現するのだけど要は感性の問題。美とか快とかいうものの一致こそが人を理解する根本を成すのだと思った。映像がもの凄くきれい。 (★★★)

音吐朗朗〜最近聴く音楽〜

  • 雪月花
    YUMING: WINGS OF WINTER,SHADES OF SUMMER 
     時に、出会いは偶然。4年も前に発売されたこのアルバムを、今日、このタイミングで初めて聴いたのも、偶然。十代の頃から、ユーミンの曲の「やさしさに包まれ」て、歌詞の鋭さに突かれて、何度も窮地を切り抜けてきた。今回も、きっと背中を押してくれるね。どんな状態になっても、私らしく、凛といること。そうきっと「悲しみにも時は流れ 海へと注いでいく」のだから。 (★★★★★)
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  • 乙女ノックアウトナイト
    比屋定 篤子: ひやじょう
    久々発売の4thアルバムのお気に入りの曲。もう大分前からライヴでは歌われていたけど、毎回このテンポにくらくらでした(^-^)レコード会社の人からこの題名は・・・と言われたらしいけど、この題名あってこそ、だと思う。オザケンの『東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディーブロー』を思わせますです。 (★★★★)
  • ミモザ
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    最近、どれを聴いても同じに聴こえる(爆)新しい刺激が欲しいよぉ。でも、サビの黒ポンの声は良いね。あとCMの唐沢くんもね。 (★★)

錦心繍口〜最近読んだ本〜

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    ハリーポッターシリーズは、話題になってすぐに1作目を読んだのだけど、正直、あまり興味が持てず、そのままにしておいた。が、最近、生徒と面接の練習をしている時に「教育学部に行きたいと思ったのは、ハリーポッターシリーズのダンブルドア校長先生の影響があります」というのを聞いて、改めて読んでみようと思った。この巻でも、自分がスリザリンと関係深いのではないかと悩むハリーに、「大切なのは、どう生まれたではなく、何を選ぶかだ」と助言するところがいちばん心に染みた。なるほど、教育指南書として読むハリーポッターもありだな、とシリーズ読破を試みている。それにしてもロックハートは、ひどすぎる教師だ(笑)
  • 竹田 青嗣: 「自分」を生きるための思想入門
    思想とは、社会的には人間に「正しいこと」を教えるものではなく、社会の中で絶えず「より合理的な関係」を作り出していくための“技術”であり、実存的には、個々の人間が、自分の生全体から「より大きいエロス(生きる喜び)」を引き出すための有効な“技術”であるという主張には、目から鱗が落ちた。自分が目指す生き方のために、様々な思想家の思想をどう理解し、どう選び取るか。哲学とはかくも実用的なのかと感動した。さて、私は、何をえらべばいいのか。それこそ、自分でしか決められない実存的問題なのである。 (★★★★)
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    新旧女流俳人対談集。鈴木 真砂女という名前は知っていたが、こんなにも壮絶な恋をした人だったとは・・・その激しさと、強さと、美しさに号泣。魂が惹かれあうというのは、きっとこういうことを言うのだろうな。そんな巡り会いがひとつあれば、人はしあわせなのだと思う。黛さんも、そういう恋が出来るといいですね(笑) (★★★★)
  • 小谷野 敦: モテない男
    ものすごく面白くて、旅行中に二日で読み終えて、友人に押し付けてきた(笑)「恨み言」的な体裁を取りながら、しっかり分析されているところが流石。「恋愛はしなくても生きていける」と提唱したいけど出来ないジレンマが面白かった。(なんて言ったら怒られるかも)私はやっぱり本居宣長派の恋愛至上主義です(^^; (★★★★)
  • 養老 孟司: バカの壁
    今更ですが(笑)これって、ベストセラーなんだよね?一昨年、日本でいちばん読まれた作品なんだよね?こういう「もっともなこと」の溢れた本がそんなに売れてるのに、こんなにどうしようもない社会なのは何故なんだろう?(^^;「個性」についての考え方など、とてもわかりやすくて的確だと思いました。 (★★★★)
  • 瀬尾 まいこ: 図書館の神様
    文学音痴のでもしか国語教師が主人公。結構いるんだよね、実は(爆)私、もの凄く苦手なんだけど(爆)でも、まぁ、現代的には響きやすい話なのかもしれない。これをきっかけに漱石や周五郎を読む人が出れば、それはそれで良いのでしょう(^^; (★★★)
  • 小谷野 敦: 性と愛の日本語講座
    近現代文学における性愛に関係する言葉を、まじめに調べた一冊。下世話に思える言葉であろうと、いくつもの出典に当たって読み解いて行く作業はまさに国文学。大学でやってたことを思い出して楽しかった(^-^) (★★★★)

気韻生動〜最近観た舞台〜

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    福澤一座:
    福澤一座の第二回公演。言葉とテレビにこだわったこの作品群は、これからも小さなエピソードを繋いでいく形なのかな?正直言って、去年の方が面白かったなぁ(^-^;)しかし、森圭介アナはやっぱり好み(^^;一瞬「畑中くん?」と思う部分があって、やっぱり好きなタイプが似ていることが判明。結局ショタコンか(爆) (★★★)
  • SHIROH
    劇団☆新感線:
    歌うような台詞、とよく言うが、歌がきちんと台詞になっていることに感動。上川さんはとても歌が上手いと言う訳ではないのだが、すごくまっすぐに体に染みてくるのだ。『マイ・フェア・レディ』の レックス・ハリスンみたい。もう一人のシロウ、中川くんはもの凄く歌がうまかった。そして、ロック。それから迫力の群舞。すごい。少しは見習え<『クラ○ディア』(爆) (★★★★)
  • 『スキップ』
    演劇集団キャラメルボックス: タイムトラベルシアターVol.1
    都合三回鑑賞。一度目は現在の自分に重ね合わせて観てしまって号泣。二度目は少し冷静になり、自分が頭の中でだいぶ補って見ていること気付く。それでも、告白されると泣いてしまう(;_;)3度目の千秋楽は、坂口さんの熱演にまた引き込まれ、クライマックスでやっぱり涙を禁じ得ない。とにかくさわやかに泣けた。演劇としての構成の問題などはあるのだろうけど、小説も含めて十二分に『スキップ』の世界を堪能できたことに感謝。 (★★★★)
  • 沖縄ラーメンズライヴ
    ラーメンズ:
    『沖縄ラーメンズライヴ  サーターアンダギーは見かけのシンプルさの割に名前が長過ぎ  A&Wは貴方と私の略。  ラーメンズにとって沖縄が楽園になるかどうかは客次第』 やっぱり頭の良い人の考えることは面白い。 (★★★★)
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