渓嵐国泰山海紘宮

Recent Trackbacks

« 学びの共同体 公開授業 | Main | 映画:るろうに剣心 #ruroken_movie »

August 20, 2012

『アルジャーノンに花束を〈アクア〉』 演劇集団キャラメルボックス #caramel box

劇場に向かう途中で、
大きな声で「まっくろくろすけでておいで~!」と叫ぶ
三十代くらいの女の人とすれ違った。
その時、私の前を歩いていた女子高生二人が
彼女に関して心ない会話をしているのを
聞くとはなしに聞いてしまい、
なんだかとても辛い気持ちになった。

劇中、同じように、辛い、胸の奥をぎゅっと掴まれるような
何とも表現し難い気持ちに何度も襲われた。

知的障がいを持つ主人公チャーリーに対する
店の同僚たちのあからさまな嫌がらせもさることながら、
何よりも切なく感じたのは、
母であるローズの態度である。
ローズがチャーリーに冷たいとか、
母親のくせにひどいとか、
簡単に非難することはいくらもできるだろうが、
そうしたところで、どうしようもない、
誰にでもある拭いきれない思いを体現しているのが
まさにローズなのだ。
自分の子供がせめて人並みであって欲しい。
そう思うのはごく当たり前のことで
多くの親はそのために色々と努力をするものだ。
私も人の親でこそないものの、
仕事上、多くの親御さんに会うので、
その気持ちが直に伝わってくるだけに、
ローズの行為をきっぱり断罪できない、
でも、チャーリーのために許しがたいと思う
何とも複雑な思いに苛まれたのだ。

道徳的にこうすべきである、などということで
表面上の態度は変化させられるかもしれない。
それだけでも、多少マシかもしれないが、
結局のところ根本的には解決できず、
親も子も辛い思いを繰り返す。
そんな袋小路から抜け出す道はないだろうかと
思いながら立ち寄った書店で、
大江健三郎氏の最新エッセイ集を手にした。
周知のことであろうが、大江氏の長男である
光さんは、いくつかの障がいを抱える音楽家だ。
大江親子の姿は何度か映像で目にしたこともあり
本もいく冊か読んだことがあったが
今日手にした単行本にも冒頭に二人で散歩をした話が
収録されていた。

大江氏が光さんを描く時の筆致にこそ、
私の迷いの答えはあると感じた。

「注意深いまなざし」

受け入れるとか、肯定するとか、
カウンセリングの席で有効だとして
口にされる動詞はいくつもあるが、
それはどれも、この場合、偽善的で、
忍耐を伴います。
「注意深いまなざし」は、その、努力を要する動詞の前の
大切な行為なのだ。
まずは見つめること。
しっかりと、そのありのままの姿を、
陰りのない目で見つめるだけで、
その相手にとって必要なことは、
ずんと伝わってくるのだ。
言葉を紡ぐのが苦手な相手のことこそ、
じっくりと見つめることで、多くのことがわかるものである。

そこまで思い及んで、改めて違和感を覚えるのは、
アリス・キニアンという教師の存在だ。
観劇後、忸怩たるものを訴えた私に、
ある人がくれたヒントは
「アリスは、現在なら、最後までチャーリーの味方」
という言葉だった。

初めてこの原作が書かれた時代を考えれば、
仕方がないのかもしれないが、
確かに、アリスには教師とは思えない発言が多いのだ。
高校生の時に原作を読んだ時にも、
どうも、好きになれなかったのだが、
その理由がわかった気がした。

アリスは、知能が高くなったチャーリーに
「あなたといると、自分はバカだと思ってしまう」と漏らす。
教師は、人を育てるのが仕事だから、
俗にいう青藍の誉ではないが、生徒が自らを超えて行くことは、
誇りにさえ思うのが普通だと思う。
アリスに感じた違和感、釈然としない気持ちは
私が教師であるがゆえに、増幅していき、
胸のつかえが取れないような気分で数日、過ごした。
そして、それがあまりに気になったので、
結構な強行突破で、会いに行ってしまった。
もう一人のアリス・キニアンに。

« 学びの共同体 公開授業 | Main | 映画:るろうに剣心 #ruroken_movie »

Comments

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/61532/55471642

Listed below are links to weblogs that reference 『アルジャーノンに花束を〈アクア〉』 演劇集団キャラメルボックス #caramel box:

« 学びの共同体 公開授業 | Main | 映画:るろうに剣心 #ruroken_movie »

July 2015
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

雅俗共賞〜最近観た映画〜

  • 真珠の耳飾りの少女
    :
    光の変化を感じ取るものと、そうでないもの。それを人々は「芸術を解するか否か」と表現するのだけど要は感性の問題。美とか快とかいうものの一致こそが人を理解する根本を成すのだと思った。映像がもの凄くきれい。 (★★★)

音吐朗朗〜最近聴く音楽〜

  • 雪月花
    YUMING: WINGS OF WINTER,SHADES OF SUMMER 
     時に、出会いは偶然。4年も前に発売されたこのアルバムを、今日、このタイミングで初めて聴いたのも、偶然。十代の頃から、ユーミンの曲の「やさしさに包まれ」て、歌詞の鋭さに突かれて、何度も窮地を切り抜けてきた。今回も、きっと背中を押してくれるね。どんな状態になっても、私らしく、凛といること。そうきっと「悲しみにも時は流れ 海へと注いでいく」のだから。 (★★★★★)
  • 『愛と欲望の日々』&『Lonely Woman』
    サザンオールスターズ:
    『大奥』のようなドラマを軽やかにするのはサザンしかいないのかも。女の情念なんてハレルヤ!ってなもんかな。きらびやかなジャパネスク調のサザン(世は万葉あたりね)、実はかなり好き(^-^)『Lonely Woman』は秋冬のサザン。実はサザンは全天候型なのよ(笑)(桑田さんは雨男だけど) (★★★★)
  • 乙女ノックアウトナイト
    比屋定 篤子: ひやじょう
    久々発売の4thアルバムのお気に入りの曲。もう大分前からライヴでは歌われていたけど、毎回このテンポにくらくらでした(^-^)レコード会社の人からこの題名は・・・と言われたらしいけど、この題名あってこそ、だと思う。オザケンの『東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディーブロー』を思わせますです。 (★★★★)
  • ミモザ
    ゴスペラーズ:
    最近、どれを聴いても同じに聴こえる(爆)新しい刺激が欲しいよぉ。でも、サビの黒ポンの声は良いね。あとCMの唐沢くんもね。 (★★)

錦心繍口〜最近読んだ本〜

  • J・K・ローリング: ハリーポッターと秘密の部屋
    ハリーポッターシリーズは、話題になってすぐに1作目を読んだのだけど、正直、あまり興味が持てず、そのままにしておいた。が、最近、生徒と面接の練習をしている時に「教育学部に行きたいと思ったのは、ハリーポッターシリーズのダンブルドア校長先生の影響があります」というのを聞いて、改めて読んでみようと思った。この巻でも、自分がスリザリンと関係深いのではないかと悩むハリーに、「大切なのは、どう生まれたではなく、何を選ぶかだ」と助言するところがいちばん心に染みた。なるほど、教育指南書として読むハリーポッターもありだな、とシリーズ読破を試みている。それにしてもロックハートは、ひどすぎる教師だ(笑)
  • 竹田 青嗣: 「自分」を生きるための思想入門
    思想とは、社会的には人間に「正しいこと」を教えるものではなく、社会の中で絶えず「より合理的な関係」を作り出していくための“技術”であり、実存的には、個々の人間が、自分の生全体から「より大きいエロス(生きる喜び)」を引き出すための有効な“技術”であるという主張には、目から鱗が落ちた。自分が目指す生き方のために、様々な思想家の思想をどう理解し、どう選び取るか。哲学とはかくも実用的なのかと感動した。さて、私は、何をえらべばいいのか。それこそ、自分でしか決められない実存的問題なのである。 (★★★★)
  • 鈴木 真砂女 ・黛 まどか : 恋がすべて
    新旧女流俳人対談集。鈴木 真砂女という名前は知っていたが、こんなにも壮絶な恋をした人だったとは・・・その激しさと、強さと、美しさに号泣。魂が惹かれあうというのは、きっとこういうことを言うのだろうな。そんな巡り会いがひとつあれば、人はしあわせなのだと思う。黛さんも、そういう恋が出来るといいですね(笑) (★★★★)
  • 小谷野 敦: モテない男
    ものすごく面白くて、旅行中に二日で読み終えて、友人に押し付けてきた(笑)「恨み言」的な体裁を取りながら、しっかり分析されているところが流石。「恋愛はしなくても生きていける」と提唱したいけど出来ないジレンマが面白かった。(なんて言ったら怒られるかも)私はやっぱり本居宣長派の恋愛至上主義です(^^; (★★★★)
  • 養老 孟司: バカの壁
    今更ですが(笑)これって、ベストセラーなんだよね?一昨年、日本でいちばん読まれた作品なんだよね?こういう「もっともなこと」の溢れた本がそんなに売れてるのに、こんなにどうしようもない社会なのは何故なんだろう?(^^;「個性」についての考え方など、とてもわかりやすくて的確だと思いました。 (★★★★)
  • 瀬尾 まいこ: 図書館の神様
    文学音痴のでもしか国語教師が主人公。結構いるんだよね、実は(爆)私、もの凄く苦手なんだけど(爆)でも、まぁ、現代的には響きやすい話なのかもしれない。これをきっかけに漱石や周五郎を読む人が出れば、それはそれで良いのでしょう(^^; (★★★)
  • 小谷野 敦: 性と愛の日本語講座
    近現代文学における性愛に関係する言葉を、まじめに調べた一冊。下世話に思える言葉であろうと、いくつもの出典に当たって読み解いて行く作業はまさに国文学。大学でやってたことを思い出して楽しかった(^-^) (★★★★)

気韻生動〜最近観た舞台〜

  • Dr.TV
    福澤一座:
    福澤一座の第二回公演。言葉とテレビにこだわったこの作品群は、これからも小さなエピソードを繋いでいく形なのかな?正直言って、去年の方が面白かったなぁ(^-^;)しかし、森圭介アナはやっぱり好み(^^;一瞬「畑中くん?」と思う部分があって、やっぱり好きなタイプが似ていることが判明。結局ショタコンか(爆) (★★★)
  • SHIROH
    劇団☆新感線:
    歌うような台詞、とよく言うが、歌がきちんと台詞になっていることに感動。上川さんはとても歌が上手いと言う訳ではないのだが、すごくまっすぐに体に染みてくるのだ。『マイ・フェア・レディ』の レックス・ハリスンみたい。もう一人のシロウ、中川くんはもの凄く歌がうまかった。そして、ロック。それから迫力の群舞。すごい。少しは見習え<『クラ○ディア』(爆) (★★★★)
  • 『スキップ』
    演劇集団キャラメルボックス: タイムトラベルシアターVol.1
    都合三回鑑賞。一度目は現在の自分に重ね合わせて観てしまって号泣。二度目は少し冷静になり、自分が頭の中でだいぶ補って見ていること気付く。それでも、告白されると泣いてしまう(;_;)3度目の千秋楽は、坂口さんの熱演にまた引き込まれ、クライマックスでやっぱり涙を禁じ得ない。とにかくさわやかに泣けた。演劇としての構成の問題などはあるのだろうけど、小説も含めて十二分に『スキップ』の世界を堪能できたことに感謝。 (★★★★)
  • 沖縄ラーメンズライヴ
    ラーメンズ:
    『沖縄ラーメンズライヴ  サーターアンダギーは見かけのシンプルさの割に名前が長過ぎ  A&Wは貴方と私の略。  ラーメンズにとって沖縄が楽園になるかどうかは客次第』 やっぱり頭の良い人の考えることは面白い。 (★★★★)
無料ブログはココログ