渓嵐国泰山海紘宮

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April 03, 2010

ハートロッカー(ネタバレバリバリ)

 
 人は何故映画を観るのだろうか。
 
 『ハートロッカー』を見始めて数分、
 私は「何でこんなもの観に来たんだろう・・・」と
 思い始めていた。

 とにかく恐い。
 花火が打ち上がるたびにびくびくと体が動いてしまい
 隣にいる人に笑われてしまうほどびびりな私。
 気付くと、スカーフを握りしめて硬直。
 
 イラクで戦死した兵士のうち半数はテロによる爆弾が原因で
 それを処理する爆弾処理班の技術兵の死亡率は
 他の兵士の5倍だそうだ。
 もっともそんな蘊蓄は、帰ってきて開いた
 『ハートロッカー』のWebSiteで仕入れたもの。
 何も知らずに見ている私は、そんなデータなんぞ関係なく
 目の前で起こっている(ように感じる)爆弾処理の中で
 いつ事故が起きるのか、この中の誰が傷ついてしまうのか
 本当に鼓動が収まらなくて、苦しかった。

 とにかく臨場感が凄まじい。
 砂は目に入るのではないかと思うほどだし
 銃撃の音や人の動く音が恐怖をかき立てる。
 (映画館のサラウンドに思わず振り返ってしまった(爆))
 すさまじいリアリズムで、迫ってきて、
 ドキュメンタリーにしか思えなくなってくる。

 爆弾処理班の班長のジェームズ二等軍曹の
 命を顧みないめちゃくちゃぶりと、
 命をかけて人を助けようとする行動のアンバランスさの
 何とも言えない「リアル」。
 自分や仲間の命を守るための規則やシステムを
 ないがしろにするくせに、
 爆弾人間に仕立てられた少年を爆破できず
 処理して遺体を運び出したり、
 その少年が何故そうなったのか調べようと
 バクダット市街に飛び出して行ったり、
 爆弾を取り付けられた男を救おうと
 ぎりぎりまで処理をしたり。
 
 こうやって、彼の行動を書き立てると
 なんとも心の温かな責任感溢れるヒーローである。
 しかし、これはそんな「画に描いた兵士」の話ではない。
 人間爆弾にされたと思った
 彼が親しくなったDVD売りの少年は実は別人。
 元気な少年と再会して
 自分の勘違いに気付いたジェームズは
 苦虫を噛みつぶしたような表情を見せる。
 それは、滑稽と言うよりも、切なくなる表情だ。
 少年への真の愛情から行動したのであれば
 生きていた少年に会って感じるのは
 喜び以外にないのではないか。
 彼はその少年のために
 自分の命をかけて行動したのだから。
 彼の行動は、純粋に少年を愛していたからではなく、
 誰かのため、の方が、
 「爆弾を処理する」という彼が唯一愛してやまないことを
 よりドラマティックにヒロイックに演出してくれるからだ。
 
 この映画は「War is Drug」という言葉から始まる。
 自分の命をかけて、何かを成し遂げるという
 カタルシスを求める男は結構いる。
 酒を呑んでレクリエーションのように殴り合うシーンは
 闘争本能と呼ばれるものが彼らにとって
 大切なのだと感じさせるメッセージである。
 しかし、キャスリン・ビグロ-はそれを肯定しているのだろうか。
 私にはそうは思えない。
 ジェームズ二等軍曹が戦場に戻る姿は
 称賛に値するようにはとても見えない。
 それは『K-19』で原子炉に向かう兵士の姿とは
 明らかに違う。

 戦争という麻薬に侵されてしまう切なさ。
 通常の麻薬のように全面否定、どころか
 称賛させ与えられてしまうことのある
 その中毒性の強いドラッグの恐ろしさ。
 そこに身を浸してしまうのは、
 個人の責任では、決してない。

 アカデミーの授賞式での、
 作品賞受賞の際のスピーチで
 「今も戦っている米軍の兵士達に捧げます」
 と言ってた言葉は、本心からだと思う。
 でも、そこには言葉以上の思いが
 溢れているのではないだろうか。
 
 これは決してヒーローの物語ではない。
 全世界で戦っている米兵達は
 決してヒーローではない。
 リアルに描き出されるその現状こそが
 戦争というものを痛烈に批判しているのだと思う。

 人は何故映画を観るのか。
 それは、心を鷲掴みにしてくれるものを
 求めているから。

 恐くてしかたなかったけれど、
 甲子園の決勝以上に心は鷲掴みにされました。
 
 
  

 
 
 
 
 

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雅俗共賞〜最近観た映画〜

  • 真珠の耳飾りの少女
    :
    光の変化を感じ取るものと、そうでないもの。それを人々は「芸術を解するか否か」と表現するのだけど要は感性の問題。美とか快とかいうものの一致こそが人を理解する根本を成すのだと思った。映像がもの凄くきれい。 (★★★)

音吐朗朗〜最近聴く音楽〜

  • 雪月花
    YUMING: WINGS OF WINTER,SHADES OF SUMMER 
     時に、出会いは偶然。4年も前に発売されたこのアルバムを、今日、このタイミングで初めて聴いたのも、偶然。十代の頃から、ユーミンの曲の「やさしさに包まれ」て、歌詞の鋭さに突かれて、何度も窮地を切り抜けてきた。今回も、きっと背中を押してくれるね。どんな状態になっても、私らしく、凛といること。そうきっと「悲しみにも時は流れ 海へと注いでいく」のだから。 (★★★★★)
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    サザンオールスターズ:
    『大奥』のようなドラマを軽やかにするのはサザンしかいないのかも。女の情念なんてハレルヤ!ってなもんかな。きらびやかなジャパネスク調のサザン(世は万葉あたりね)、実はかなり好き(^-^)『Lonely Woman』は秋冬のサザン。実はサザンは全天候型なのよ(笑)(桑田さんは雨男だけど) (★★★★)
  • 乙女ノックアウトナイト
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  • ミモザ
    ゴスペラーズ:
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錦心繍口〜最近読んだ本〜

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    ハリーポッターシリーズは、話題になってすぐに1作目を読んだのだけど、正直、あまり興味が持てず、そのままにしておいた。が、最近、生徒と面接の練習をしている時に「教育学部に行きたいと思ったのは、ハリーポッターシリーズのダンブルドア校長先生の影響があります」というのを聞いて、改めて読んでみようと思った。この巻でも、自分がスリザリンと関係深いのではないかと悩むハリーに、「大切なのは、どう生まれたではなく、何を選ぶかだ」と助言するところがいちばん心に染みた。なるほど、教育指南書として読むハリーポッターもありだな、とシリーズ読破を試みている。それにしてもロックハートは、ひどすぎる教師だ(笑)
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    思想とは、社会的には人間に「正しいこと」を教えるものではなく、社会の中で絶えず「より合理的な関係」を作り出していくための“技術”であり、実存的には、個々の人間が、自分の生全体から「より大きいエロス(生きる喜び)」を引き出すための有効な“技術”であるという主張には、目から鱗が落ちた。自分が目指す生き方のために、様々な思想家の思想をどう理解し、どう選び取るか。哲学とはかくも実用的なのかと感動した。さて、私は、何をえらべばいいのか。それこそ、自分でしか決められない実存的問題なのである。 (★★★★)
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  • 養老 孟司: バカの壁
    今更ですが(笑)これって、ベストセラーなんだよね?一昨年、日本でいちばん読まれた作品なんだよね?こういう「もっともなこと」の溢れた本がそんなに売れてるのに、こんなにどうしようもない社会なのは何故なんだろう?(^^;「個性」についての考え方など、とてもわかりやすくて的確だと思いました。 (★★★★)
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    近現代文学における性愛に関係する言葉を、まじめに調べた一冊。下世話に思える言葉であろうと、いくつもの出典に当たって読み解いて行く作業はまさに国文学。大学でやってたことを思い出して楽しかった(^-^) (★★★★)

気韻生動〜最近観た舞台〜

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  • SHIROH
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    歌うような台詞、とよく言うが、歌がきちんと台詞になっていることに感動。上川さんはとても歌が上手いと言う訳ではないのだが、すごくまっすぐに体に染みてくるのだ。『マイ・フェア・レディ』の レックス・ハリスンみたい。もう一人のシロウ、中川くんはもの凄く歌がうまかった。そして、ロック。それから迫力の群舞。すごい。少しは見習え<『クラ○ディア』(爆) (★★★★)
  • 『スキップ』
    演劇集団キャラメルボックス: タイムトラベルシアターVol.1
    都合三回鑑賞。一度目は現在の自分に重ね合わせて観てしまって号泣。二度目は少し冷静になり、自分が頭の中でだいぶ補って見ていること気付く。それでも、告白されると泣いてしまう(;_;)3度目の千秋楽は、坂口さんの熱演にまた引き込まれ、クライマックスでやっぱり涙を禁じ得ない。とにかくさわやかに泣けた。演劇としての構成の問題などはあるのだろうけど、小説も含めて十二分に『スキップ』の世界を堪能できたことに感謝。 (★★★★)
  • 沖縄ラーメンズライヴ
    ラーメンズ:
    『沖縄ラーメンズライヴ  サーターアンダギーは見かけのシンプルさの割に名前が長過ぎ  A&Wは貴方と私の略。  ラーメンズにとって沖縄が楽園になるかどうかは客次第』 やっぱり頭の良い人の考えることは面白い。 (★★★★)
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