渓嵐国泰山海紘宮

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April 04, 2010

しあわせの隠れ場所(ネタバレバリバリ)


 何年か前に横浜中華街で
 怪しいいでたちのおじさんに呼び止められ
 「あなたは、何か音楽に関することをしておけば
  とても大成したのに、もう遅い」と言われた。
 いんちき占い師の戯れ言だが、
 「なるほど、そういうこともあり得る」と思った。

 例えば、イチローが野球ではなく
 他のスポーツをしていたら? 
 ヨーヨー・マがチェロと出会ってなかったら?
 その道で一流をきわめた人だって
 その道に出会わなければ大成することは
 あり得ないわけだ。

 生徒にもよくこの話をする。
 自分が何者かになるためには、
 何かに出会わなければならない。
 それはどんなものだか分からない。
 だから、出会うために
 間口は拡げておいた方がいいと。
 でも、この世界には、
 いろんな可能性を試したくても
 試せない若者がたくさんいる。

 一番顕著なのは経済的不自由さであろう。
 日本でもやっと最近経済格差が
 問題にされるようになったが
 私も、「バス代がないから学校に来られない」という
 生徒に出会ったことがある。
 彼女は高校卒業後、
 希望していた製菓会社に就職したが
 不況のため勤務店舗が閉鎖され、
 遠い店舗への異動を言い渡されたが
 通勤方法がないという理由でやめてしまった。
 高校現場にいると、そういう切ない実情を
 イヤと言うほど見せつけられる。

 この映画に出て来る青年、マイケル・オアーは
 私が出会った生徒たち以上に貧困に
 閉じ込められて少年時代を過ごした。
 そんな彼が、
 富裕層の女性リー・アン・テューイとの出会いにより
 大きなサクセスを掴んでいく。
 ・・・と書いてしまったら
 なんて陳腐な話なんだ、と思ってしまう。

 正直、私も見に行くまで、「そういうノリ」だった。 
 しかし、見終わって感じたのは、全く違う感覚だった。

 他人から見て「慈善」と呼ばれる行為をすることは
 結構居心地が悪いのではないだろうか。
 「偉いわね」とか「余裕があるからできるのね」などと言う
 反応に悪意なんて無いのだろうけど
 「本当はそんなんじゃないのに・・・」という思いが
 たちはだかる。

 がんばる理由は、さまざまだ。
 でも、やはり大きな原動力になるのは
 大切に感じる誰か、だろう。
 家族だったり、友人だったり、
 それこそ人それぞれなのだろうけれど
 例えば、寒空の下を薄着で歩いている
 家のない青年が、そのかけがえのない誰かに
 思えることもあるのだ。
 そんな人間もいるのだ。

 アカデミーの授賞式での
 サンドラ・ブロックのスピーチは
 ユーモアに溢れていて
 それでいていかなる偏見も越えろと教えてくれた
 母親に対する感謝の想いに溢れた素敵なものだったが
 中でも、血がつながっているいないに関係なく
 自分の子どもたちに愛情を注いでいる
 全ての母親に対する賛辞の言葉は胸を打った。
 
 リー・アンがマイケルに手を差し伸べたのは
 言葉では尽くせぬ深い想いからだと思う。
 同情とか、哀憫とか、慈善とか、
 そんな言葉では説明のつかない深い想い。
 そんな気持ちを抱けるリー・アンは
 本当に素敵だと思う。
 でもそれ以上に素敵だと感じたのは
 彼女の家族だ。
 気が強くて、思い立ったら必ずやり遂げる
 そんなありのままのリー・アンを
 そのまま抱きとめる良人ショーン。
 マイケルを本当の兄のように慕い、
 フットボールのコーチ的な役割も務める
 天真爛漫のS.J。
 そしてマイケルと同級生で、
 友人からはあらぬ中傷を受けているだろうに
 「馬鹿みたいなことよ」と言ってのけるコリンズ。
 家族の中に他人が入ってくるのだから
 それなりの軋轢があり、それを乗り越えて
 さらに絆が深まる、と
 ドラマならば描かれるところだろうが
 実話としてのこの家族のリアリティは
 なんともいえないちからを持っている。
 このゆるぎない家族の根底には
 本当に豊かな愛情が流れているのだろうと
 問答無用で感じさせるちからがある。

 わたしがいちばん好きだったシーンは
 マイケルがS.Jを乗せているときに
 自動車事故を起こしてしまった後に
 駆けつけたリー・アンが、
 本当に掛け値なく、ふたりを同等に心配する様子。
 マイケルを責めることなく
 「事故はあなたの責任じゃない」と言い切る姿勢は
 「そうしなければならない」というような
 恣意的な意識などまったくない
 本気の、むき出しの愛情が感じられた。
 こんな愛情を誰かが注いでくれたならば
 人は育ちなおせるのだろう。

 いや、これはまた陳腐な物言いだ。
 リー・アンに言わせれば
 「変えてもらったのは私のほう」なのだ。
 人と人との関係は決して一方的ではない。
 互いの関わりが、幾様にも変化をくれるのだ。

 アカデミーの作品賞候補を三本観たが、
 一番好きなのはこれ。
 でも、いちばんシーンが目に焼きつき
 フラッシュバックを起こしそうなほど
 忘れがたいのは
 『ハート・ロッカー』。
 そして、誰かにどれを観るべきか聞かれたら
 薦めるのは『アバター』かな。
 (誰が見たってそれなりに楽しめる)

 でも、いちばん楽しみにしてるのは
 『プレシャス』なり。
  
 

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雅俗共賞〜最近観た映画〜

  • 真珠の耳飾りの少女
    :
    光の変化を感じ取るものと、そうでないもの。それを人々は「芸術を解するか否か」と表現するのだけど要は感性の問題。美とか快とかいうものの一致こそが人を理解する根本を成すのだと思った。映像がもの凄くきれい。 (★★★)

音吐朗朗〜最近聴く音楽〜

  • 雪月花
    YUMING: WINGS OF WINTER,SHADES OF SUMMER 
     時に、出会いは偶然。4年も前に発売されたこのアルバムを、今日、このタイミングで初めて聴いたのも、偶然。十代の頃から、ユーミンの曲の「やさしさに包まれ」て、歌詞の鋭さに突かれて、何度も窮地を切り抜けてきた。今回も、きっと背中を押してくれるね。どんな状態になっても、私らしく、凛といること。そうきっと「悲しみにも時は流れ 海へと注いでいく」のだから。 (★★★★★)
  • 『愛と欲望の日々』&『Lonely Woman』
    サザンオールスターズ:
    『大奥』のようなドラマを軽やかにするのはサザンしかいないのかも。女の情念なんてハレルヤ!ってなもんかな。きらびやかなジャパネスク調のサザン(世は万葉あたりね)、実はかなり好き(^-^)『Lonely Woman』は秋冬のサザン。実はサザンは全天候型なのよ(笑)(桑田さんは雨男だけど) (★★★★)
  • 乙女ノックアウトナイト
    比屋定 篤子: ひやじょう
    久々発売の4thアルバムのお気に入りの曲。もう大分前からライヴでは歌われていたけど、毎回このテンポにくらくらでした(^-^)レコード会社の人からこの題名は・・・と言われたらしいけど、この題名あってこそ、だと思う。オザケンの『東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディーブロー』を思わせますです。 (★★★★)
  • ミモザ
    ゴスペラーズ:
    最近、どれを聴いても同じに聴こえる(爆)新しい刺激が欲しいよぉ。でも、サビの黒ポンの声は良いね。あとCMの唐沢くんもね。 (★★)

錦心繍口〜最近読んだ本〜

  • J・K・ローリング: ハリーポッターと秘密の部屋
    ハリーポッターシリーズは、話題になってすぐに1作目を読んだのだけど、正直、あまり興味が持てず、そのままにしておいた。が、最近、生徒と面接の練習をしている時に「教育学部に行きたいと思ったのは、ハリーポッターシリーズのダンブルドア校長先生の影響があります」というのを聞いて、改めて読んでみようと思った。この巻でも、自分がスリザリンと関係深いのではないかと悩むハリーに、「大切なのは、どう生まれたではなく、何を選ぶかだ」と助言するところがいちばん心に染みた。なるほど、教育指南書として読むハリーポッターもありだな、とシリーズ読破を試みている。それにしてもロックハートは、ひどすぎる教師だ(笑)
  • 竹田 青嗣: 「自分」を生きるための思想入門
    思想とは、社会的には人間に「正しいこと」を教えるものではなく、社会の中で絶えず「より合理的な関係」を作り出していくための“技術”であり、実存的には、個々の人間が、自分の生全体から「より大きいエロス(生きる喜び)」を引き出すための有効な“技術”であるという主張には、目から鱗が落ちた。自分が目指す生き方のために、様々な思想家の思想をどう理解し、どう選び取るか。哲学とはかくも実用的なのかと感動した。さて、私は、何をえらべばいいのか。それこそ、自分でしか決められない実存的問題なのである。 (★★★★)
  • 鈴木 真砂女 ・黛 まどか : 恋がすべて
    新旧女流俳人対談集。鈴木 真砂女という名前は知っていたが、こんなにも壮絶な恋をした人だったとは・・・その激しさと、強さと、美しさに号泣。魂が惹かれあうというのは、きっとこういうことを言うのだろうな。そんな巡り会いがひとつあれば、人はしあわせなのだと思う。黛さんも、そういう恋が出来るといいですね(笑) (★★★★)
  • 小谷野 敦: モテない男
    ものすごく面白くて、旅行中に二日で読み終えて、友人に押し付けてきた(笑)「恨み言」的な体裁を取りながら、しっかり分析されているところが流石。「恋愛はしなくても生きていける」と提唱したいけど出来ないジレンマが面白かった。(なんて言ったら怒られるかも)私はやっぱり本居宣長派の恋愛至上主義です(^^; (★★★★)
  • 養老 孟司: バカの壁
    今更ですが(笑)これって、ベストセラーなんだよね?一昨年、日本でいちばん読まれた作品なんだよね?こういう「もっともなこと」の溢れた本がそんなに売れてるのに、こんなにどうしようもない社会なのは何故なんだろう?(^^;「個性」についての考え方など、とてもわかりやすくて的確だと思いました。 (★★★★)
  • 瀬尾 まいこ: 図書館の神様
    文学音痴のでもしか国語教師が主人公。結構いるんだよね、実は(爆)私、もの凄く苦手なんだけど(爆)でも、まぁ、現代的には響きやすい話なのかもしれない。これをきっかけに漱石や周五郎を読む人が出れば、それはそれで良いのでしょう(^^; (★★★)
  • 小谷野 敦: 性と愛の日本語講座
    近現代文学における性愛に関係する言葉を、まじめに調べた一冊。下世話に思える言葉であろうと、いくつもの出典に当たって読み解いて行く作業はまさに国文学。大学でやってたことを思い出して楽しかった(^-^) (★★★★)

気韻生動〜最近観た舞台〜

  • Dr.TV
    福澤一座:
    福澤一座の第二回公演。言葉とテレビにこだわったこの作品群は、これからも小さなエピソードを繋いでいく形なのかな?正直言って、去年の方が面白かったなぁ(^-^;)しかし、森圭介アナはやっぱり好み(^^;一瞬「畑中くん?」と思う部分があって、やっぱり好きなタイプが似ていることが判明。結局ショタコンか(爆) (★★★)
  • SHIROH
    劇団☆新感線:
    歌うような台詞、とよく言うが、歌がきちんと台詞になっていることに感動。上川さんはとても歌が上手いと言う訳ではないのだが、すごくまっすぐに体に染みてくるのだ。『マイ・フェア・レディ』の レックス・ハリスンみたい。もう一人のシロウ、中川くんはもの凄く歌がうまかった。そして、ロック。それから迫力の群舞。すごい。少しは見習え<『クラ○ディア』(爆) (★★★★)
  • 『スキップ』
    演劇集団キャラメルボックス: タイムトラベルシアターVol.1
    都合三回鑑賞。一度目は現在の自分に重ね合わせて観てしまって号泣。二度目は少し冷静になり、自分が頭の中でだいぶ補って見ていること気付く。それでも、告白されると泣いてしまう(;_;)3度目の千秋楽は、坂口さんの熱演にまた引き込まれ、クライマックスでやっぱり涙を禁じ得ない。とにかくさわやかに泣けた。演劇としての構成の問題などはあるのだろうけど、小説も含めて十二分に『スキップ』の世界を堪能できたことに感謝。 (★★★★)
  • 沖縄ラーメンズライヴ
    ラーメンズ:
    『沖縄ラーメンズライヴ  サーターアンダギーは見かけのシンプルさの割に名前が長過ぎ  A&Wは貴方と私の略。  ラーメンズにとって沖縄が楽園になるかどうかは客次第』 やっぱり頭の良い人の考えることは面白い。 (★★★★)
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